認知症との向き合い方

 令和5年10月から脳神経内科を開設しました。皆さんは「脳神経内科」と聞いて、どんな疾患を診る診療科だと思いますか?
 脳神経内科は脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診る内科です。体を動かしたり、感じたりすることや考えたり覚えたりすることが上手にできなくなったときに脳や脊髄、筋肉の病気を疑います。
 脳神経内科が扱う代表的な病気が“認知症”です。
                                      脳神経内科部長 山本 遥平


認知症とは


 認知症の世間一般での認識は「何度も同じことを尋ねてきたり、さっき言ったことをすぐに忘れてしまう状態」だと思います。認知症はもともと正常であった記憶や判断力などの知能(認知機能)が何らかの原因によって徐々に低下し、日常生活や社会生活に支障がでてきた状態をいいます。認知症の検査には、改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)などがあります。どちらの検査も質問形式で点数が低いほど重症で、HDS-Rでは21点以下、MMSEでは23点以下で認知症を疑います。
 また、短期記憶を含めた高次脳機能は加齢や病気の影響で障害されても日常生活はなんとか送れることがあります。そのため周りがおかしいなと思う頃には認知症がかなり進行した状態になっていることも珍しくありません。

治る認知症もある

 認知症は基本的に治ることはなく、徐々に進行して悪化する疾患です。ところが、他の疾患が原因で認知症と似た症状が現れることがあり、その疾患は治療することで認知機能が回復するため、Treatable dementia(治療可能な認知症)と言われています。これはビタミンB1・B12、葉酸の欠乏や甲状腺機能の障害、梅毒などの感染症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫という疾患などが原因の場合です。認知症があると判断した際に、まずは血液検査や頭部のCT・MRI検査でこれらの疾患が隠れていないか調べます。脳血流検査や髄液検査が必要になることもあります。病歴の確認、神経診察、血液・画像検査を行い、まずは認知症を分類します。

・アルツハイマー型認知症
 短期記憶障害が目立ち、判断力の低下や人の顔や物を認識できなくなる視空間認知障害を伴う。
 徘徊、興奮などの行動障害を伴うこともある。

・レビー小体型認知症
 パーキンソン症状に前後して起こるタイプで、幻覚や意識状態の変動を伴いやすい。

・前頭側頭葉型認知症
 怒りやすくなる(易怒性)など性格変化や言葉が出しづらくなる失語を伴うことが多い。

・嗜銀顆粒性認知症
 80~90代以降の高齢発症で、短期記憶障害が目立たず怒りやすくなったり、頑固になったりする。

このようにパターンを分類し、治療可能な要素がなかった場合は治療にうつりますが、高血圧や糖尿病などと違い、認知症は薬で治癒しません。劇的に症状が改善することはあまりなく、患者さんは「飲まない時と比べたら少しましかな」と言われることが多いです。薬を使わずに経過を見るケースもあります。
 治療にはドネペジル、メマンチン、ガランタミン、リバスチグミンなどの薬を使います。周辺症状という行動、精神症状が出現し、介護に抵抗したり幻覚が見えたりするような場合は、抗精神病薬や漢方薬を併用することもあります。認知症自体は直接生命に関わる状態ではありませんが、認知症をきたして動かなくなり廃用による筋力体力の低下をきたしたりします。また、食事を拒否するようになって栄養状態が悪化したり、徘徊して転倒して骨折したりして全身状態が悪化することもあります。


抗認知症薬を服用すると、認知機能の低下をわずかに抑えることができる。
しかし、薬を使っていても認知症の進行自体は抑えることができない。


ゆっくりと進行


 認知症は気付かないうちにゆっくりと発症、進行する病態で、物忘れなどの短期記憶障害を中心に幻覚や介護への抵抗などの精神症状を伴います。症状はゆっくり進行しますが、肺炎などの感染症や転倒などをきっかけに急速に進行することがあります。治療薬はありますが効果は限定的で、適切な介護サービスの利用が予後の改善につながります。